タイトルの「絆」の語源を調べてみました。「犬や馬などの動物をつなぎ止めておく綱」が語源のようで、そこから家族や友人など人と人を離れ難くしている結びつきを言うようになったようです。
絆や結びつきから連想した仕事上なじみのある言葉は「アタッチメント」です。ふだん、子どもとその家族を対象とした相談を行っているので、それに関係することを少し紹介してみます。
アタッチメントは臨床心理、特に、子どもを対象とした領域の中では、重要な視点です。「愛着」と訳されることが多く、情緒的な結びつき、特に乳幼児と親(養育者)の情緒的な絆と述べられることが多いようです。しかし、英語のアタッチメント(attachment)は「くっつく」という意味であるようで、単に情緒的絆と置き換えられるものではありません。具体的には、子どもが不安を感じた時に特定の他者(多くは親や養育者など)にくっついて安心する行動や関係を指してアタッチメントと言います。
アタッチメントはありふれた光景の中に隠れています。例えば、幼い子供を公園に遊びに連れていく親子を思い起してみてください。手をつないでやって来た親子が、公園に着くやいなや子どもは中にある新奇な遊具や見慣れない草花に強い関心を持ち、親の手をほどき、かけよっていくことでしょう。親はその姿を後ろからそっと見守り、何か危険があればすぐに世話ができるように心がけることでしょう。やがて、子どもは遊び満たされ、そのうれしい気持ちを親と分かち合うために、あるいは、何かうまくいかないことや不安が生じるとその気持ちを慰めてもらいに、再び親のもとに近づいてくることでしょう。親にくっつくことで安心を感じ、また再び親元を離れて遊びに行くことができるようになります。この一連の繰り返し、親を安心の基地にして行ったり来たり、何かあれば避難場所として親を頼りにしてくる様子の中に、安定したアタッチメントというものを見て取ることができます。
アタッチメントは、乳幼児期だけでなく、思春期を過ぎ、成人後にも人と人との関係のありよう、特に親密な関係にある他者(恋人や配偶者・パートナーなど)との人生の展開の中にもあらわれます。アタッチメントが満たされると、安心して人とつながっていると感じられ寄り添うことができ、一方で、アタッチメントが満たされないと、苦痛を感じ、だれにも寄り添ってもられないと感じるようです。
不安を抱え「いのちの電話」にコールしようとする時、おそらくはアタッチメントの欲求が強く賦活されていることでしょう。自分の話に熱心に耳を傾け応答してし寄り添ってくれる相談員に存在を受話器の向こうに感じられたとき、アタッチメントは満たされ、つながり(絆)が感じてもらえることでしょう。「いのちの電話」が多くの方々の心の安全基地となることを目指していきましょう。