そのカセットテープは、幼い園児のこんな言葉で始まった。「いろいろな人に助けてもらいました。
ぼくたちは小さくて何もできないけれど、歌をうたいました。聞いてください。
『空より高く』
東日本大震災にうちひしがれた被災者のためにと、懸命に声を張り上げる園児たち。決して上手とは
言えない合唱は、しかし聞く者の命の奥底に響く真っ直ぐさと力強さがあった。
人は空より高い心をもっている
どんな空より高い心をもっている
だからもうだめだなんて
あきらめないで
涙をふいて歌ってごらん
君の心よ 高くなれ
空より高く 高くなれ
人は海より深い心をもっている
どんな海より深い心をもっている
だからもういやだなんて
背をむけないで
見つめてごらん 信じてごらん
君の心よ 深くなれ
海より深く 深くなれ・・・
大震災から一週間が過ぎた昨年3月19日。盛岡市のAMラジオ局「IBC岩手放送」に一本の録音
テープが届いた。子供たちのメッセージに続き、先生のピアノ伴奏に乗った「空より高く」。約20年
前、音楽教育雑誌で発表されたという園児向けの合唱曲(作詞 新沢としひこ 作曲 中川ひろたか・
スコットランド民謡)。 テープを送った二戸市の保育園が、卒園式のたびに合唱する歌だった。
テープを放送した。リクエストのメールが届く。翌日も、また次の日も。感動の輪は広がり、海外メ
ディアにも紹介された。「リスナーから一番多かったのは」と同局の照井健アナウンス部長が振り返る。
「『生きる勇気を子供たちからもらった、前を向いていこうと励まされた』という声でした。何十回、
いや何百回、このテープを放送したでしょう。リクエストがあるんです」
「希望」なのだと思う。
この歌が多くの被害者の心をとらえて離さない理由は、明日に向かって歩み出すその一歩を自然に押
してくれる力にあるのだと思う。大津波に襲われ、家族を失い、恋人を亡くし、建てたばかりの家を奪
われても、逆境をはねのけ前進しようと自らを奮い立たせる被災者が無数にいる。だからこそ、リクエ
ストも絶えないに違いない。
盛岡市で昨秋開かれたマスコミ倫理懇談会で初めて「空より高く」を聞いた。被災地の映像が同時に
流され、胸が詰まり落涙しそうになった。歌詞の1番、2番と続き、園児の歌声は最後のフレーズに入
った。
だからもうだめだなんて
あきらめないで
涙をふいて歌ってごらん
君の心よ 広くなれ
空より広く 広くなれ
君の心よ 強くなれ
海より強く 強くなれ