急性期病院で医療ソーシャルワーカー(以下「MSW」という。)という医療・福祉の相
談の業務を行っています。最近は、複雑多様化した問題や困難な事例が増加していると感じ
ます。それは、社会情勢や環境の変化に伴い、貧困や社会的孤立などの問題が深刻化して
いるのも一因であると考えられます。
本来、日本においては、理論上、国民皆保健、生活保護法、社会福祉・社会保障制度など
により貧困は存在しないとされています。しかし、多くの貧困や生活困窮や生活困難が存在
しています。
例えばホームレスや所得が基準より少しだけ多くて生活保護の対象にならない人、あるいは少額
の国民年金だけで生活している高齢者、着の身着のままで避難したDV被害者、超過滞在の外国
人、多重債務者、更生保護施設で社会への復帰を目指している人、国民健康保険料が未納で保険
制度が利用出来ず医療に繋がらない人、障がい者手帳の対象とならない障がいの人、指定難病に
ならない難病の人など制度の想定外の人がたくさん存在しています。
さらに、現代の貧困と社会的孤立の問題も見逃せません。失業や低所得により住居を失って
しまったネットカフェ難民やワーキングプアなど働いても生計を維持出来ず、経済的自立が
困難となり社会から孤立してしまう例も少なくありません。社会的孤立は、若者に限らず高
齢者から中高年まで世代を超えて増加しています。社会的孤立、貧困、生活困難、健康問題、
住宅問題は密接に関係しており、一つの問題が引き金となって陥ってしまうと自力での脱却
を一層困難にしています。そこに目をつけた貧困を商売にする悪質な貧困ビジネスもあるく
らいです。
そのような人々とMSWとの接点は、病気や自殺企図などにより病院へ緊急搬送や来院さ
れた時になります。何十年もの問題を短期間で相談支援し解決へ向かうことは困難ですが、
必要に応じて関係機関等と連携しながら支援していきます。相談支援の中で「どうしたら
良いか分からなかった」「誰にも相談出来なかった」という言葉が印象に残ります。病院も
接点の一つですが、体調を壊す前に何らかの相談に結び付いていれば早期に解決し苦労も
軽減出来たかもしれません。社会的孤立は、個人と他者(社会)との接点を無くし相談さえ
出来ない深刻な状況です。
孤立の要因としては、景気の低迷による貧困の問題がありますが、もう一つは現代日本の
人間関係の希薄さや無関心が、社会的排除や社会的孤立を助長しているような気がします。
絆を失いかけている日本の中では、孤立に関する社会的認識(関心)は低く、孤立している
個人と社会(相談者)との接点も極めて少ないです。孤立した個人にとって大切なものが社
会との絆であり相談できる人や窓口となる接点です。「いのちの電話」は、その少ない接点
の一つであり存在意義は大きいと思います。