「聴く」ことは相手の思いを「受け止める」こと(伊澤 成男)

広報誌 栃木いのちの電話 第110号

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広報誌 第110号 / シリーズ listen

「聴く」ことは相手の思いを「受け止める」こと
跡見学園女子大学:心理学部臨床心理学科 教授 伊澤 成男

「聞く」と「聴く」、「訊く」の違いについては、周知のごとく 「聞くhear」は耳で音としてきく(きこえる)こと(受身的姿勢)、「聴くlisten」は相手の伝えたい ことを、話の内容だけでなく気持ちまで、心を傾けてきくこと(積極的姿勢)、「訊くask」は「尋く」 と同意で、質問などにより強制的に「答えるanswer」ことを要求することを意味するとされる。 傾聴とは、積極的傾聴のことであり、C.ロジャースのカウンセリング理論と共に日本にもたらされた 言葉である。傾聴によって話の内容と自分の気持ちを理解してもらえたとクライエントが感じれば、 それは相手に「ご褒美(心理的報酬)」を与えたことになる。また逆に、カウンセラーにも「感謝」 という報酬が返ってくることもある。確かにこれは、自分が役に立ったという心地よい体験である。 しかし、感謝してもそれを伝えられない人(認知症やうつ病の人など)もいるし、何よりもそれを得たい がために援助職に就くことは避けなければならない。どちらがクライエントか分からなくなってしまう。 相手の話をしっかり聴けると、それは二者の関係に安心と信頼をもたらし、共に目標に向かつて歩みを 進める基本となる。

コミュニケーションについて、バイステックは
1.情報をやりとりするコミュニケーション
2.感情をやりとりするコミュニケーション
3.情報と感情をやりとりするコミュニケーション
の3種類に分類しているが、傾聴は正にこの3番目のやりとりである。そして「ケースワーカー(カウンセラー)の 反応は、それがワーカーの心の中を通過した時にだけ意味を持つ」とも述べている。ここに、相手の話を頭で聞く 知的な作業だけでなく、心で聴く情的な部分を重視すると、「受け止める」という言葉が思い浮かぶ。

相手が言葉で「伝えていること」だけがすべてではない。「伝えられないこと」や「伝わってくること」に敏感に なり、気づき、相互のやりとりの中で相手が心から「受け止めてもらえた」と感じることができたら、お互いにどれほ ど幸せなことだろうか。「共感的理解」はこうした感覚とも言えよう。

その反対に、こちらが言葉などで意識的に「伝えていること」の裏側に、自然に自分が本音で感じていたり、考えたり していることが「伝わってしまうこと」がある点にも注意が必要である。クライエントとなる人は敏感(時に過敏)である。 単に「伝える」技術を学ぶだけでなく、「伝わる」ことも考慮して、相手の人が心から「受け止め」られたと感じる ようなカウンセリングを志したいものである。

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