西谷 健次:「私、HSPなんです」

広報誌 栃木いのちの電話 第117号

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私、HSPなんです
作新学院大学人間文化学部 教授/作新学院大学大学院心理学研究科 教授 西谷 健次

皆さんは、HSPという言葉をご存知でしょうか。ここ数年、関連する書籍がたくさん刊行されていますので、HSPという言葉を知ら なくても、「繊細さん」や「敏感すぎる人」というタイトルの本をご覧になった方はいらっしゃるかもしれません。

HSP (Highly Sensitive Person)は、 臨床心理学者のエレイン・アーロン博士が提唱した概念で、情報を深く処理しすぎてしまう、 刺激を受けやすい、感情的に反応しやすく共感しすぎてしまう、周囲の些細な変化に気付いてしまうなど、感覚処理特性が生まれつき 過敏で、それにより様々な生きづらさを感じてしまう人のことです。HSP特性の高い人は日常生活にストレスを感じやすく、様々な適 応上の困難を示しやすいと言われており、これまでの研究でも、抑うつ気分が高まりやすい、神経症傾向性格(不安、抑うつ、怒りな どの否定的な感情になりやすい)を示すことが多い、自尊感情や人生に対する満足度が低いなどの結果が報告されています。

ただ私が最近気になっているのは、相談の時に「私、HSPなんです」と言ってから話し始める方が増えてきたことです。HSPは ある種の「流行」となっていますので、それに便乗している人が多いだけのことなのかもしれませんが、それにしてもHSPを自認する 人がここまで多くいるのかと感じてしまいます。そこで大学生を対象とした調査を行ってみたのですが、チェックリストでHSPと判定 された人は、実に70%(300人中213人)もいることがわかりました。アーロン博士によればHSP特性の強い人は全人11の15~20%だと 述べていますので、この値がどれだけ高いかがわかります。どうして世の中、こんなにもHSPだらけになってしまったのか、 素朴に疑間を感じざるを得ません。

HSPを自認する人の話の流れは、だいたい次の通りです。
「自分はHSPでとても傷つきやすい」
「今、自分がとっている行動(リストカットなど)は自分の傷つきやすさに起因するものであり、そうした行動はやむを得ないものだ」
「しかし、その行動は自分でもよくないと感じているのでなんとか止めたいと思っているが、どうしたらいいかわからない」

こんな時、未熟な私は「あなたは自分が思っているほど傷つきやすくありませんよ」とか「こうすればその行動の頻度を減らせ ますよ」と、つい「教え」たくなってしまいます。ただそう言ったところで状況が好転しないことは、自分でも十分にわかっています。 だって相談者は「教え」を乞うために話しているのではなく、「自分が傷つきやすい」ことをわかってもらいたくて話しているのですか ら。自分が傷つきやすいことを受け入れてくれる人がいるからこそ、「自分はそれほど傷つきやすいわけではないかもしれない」と考え ることができるのです。HSPを自認する人が増える中で、「聴くこと」がいかに大切なのかを再認識する日々です。

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