ボビー・バレンタインの言葉(永原 伸彦)

広報誌 第105号 / シリーズ 絆

ボビー・バレンタインの言葉
(公財)茨城カウンセリングセンター副理事長 永原 伸彦

プロ野球に詳しい人なら、元ロッテ監督のボビー・バレンタインをご存知の方も多いだろう。彼はアメリカ大リーグの監督としても手腕を発揮した。そのバレンタイン監督が、先日NHKBS-TVで「奇跡のレッスン」という番組に登場した。彼が指導するのは、千葉県松戸市のどう見ても強そうではない少年野球チーム。監督に与えられた時間は1週間。その最終日に、全国大会に出場している強豪チームと試合をするという設定である。しかし、この見え透いたシナリオにバレンタインは何の影響も受けないのである。

百戦錬磨のバレンタインは、野球の守備面でも、打撃面でも、きわめて分かりやすく子どもたちを指導していく。しかし彼の真骨頂は、技術面の指導よりも、むしろ子どもたちが自分自身の可能性を強く信じることができるようになる指導法にある。

バレンタインが繰り返し語った言葉を紹介しよう。

◇「経験は教えられない」

バレンタインは「失敗を恐れるな」と何度でも言う。むしろ三振しようが捕球に失敗しようが、そこに向けられた「努力」と「チャレンジ」を大切にする。人は経験を通して学んでいく。たとえ失敗してもその経験は宝物。その経験を誰かが教えることはできない。だから勇気を持った子供たちのプレーには心からの拍手を送ろう。たとえそれが失敗であっても。

◇「なぜ失敗を恐れると思いますか」

これは親たちに向けられた言葉。バレンタインは言う。「それは、子どもがあなた(親)をがっかりさせたくないからです」「それはあなたを失望させたくないからです」。子どもは最も愛する親を失望させたくないのだ。自分を最も愛してくれている人をがっかりさせたくないのだ。私はこの言葉に感動した。バレンタインは、失敗を恐れるのは「よく見られたいからだ」「叱られたくないからだ」とは決して言わない。

「お父さん、お母さん、子どもはあなたを愛している。だから勇気ある失敗をほめてください。がっかりしていない。失望していない。むしろ勇気をもらっていると。」親たちの感動している表情が映し出された。実はこれが「奇跡のレッスン」だったかもしれない。

「いのちの電話」というボランティア活動も、勇気ある挑戦だと思う。ボビー・バレンタインの言葉は、ただ少年たちやその親たちにだけ語られたものではないだろう。このコミュニティの中で、電話を通して掛け手と受け手が、互いに目には見えない「心底からの思い」を分かち合おうとしている「いのちの電話」の活動にもエールを送っている。

さて、1週間後の強豪との試合はどうなったか。2試合して、1試合目はぼろ負け。相手が強すぎる。しかしバレンタインは子どもたちを集めて言う。「失敗を恐れるな。目に見えてうまくなっている」。2試合目はなんと最終回にチームは追いつき、7対7で引き分ける。

泣きじゃくる子どもたちを抱きしめながら、バレンタインは語る。「君たちの勇気を忘れないよ」。

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