いのちに寄り添う(三浦 一久)

広報誌 栃木いのちの電話 第108号

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広報誌 第108号 / シリーズ 絆

いのちに寄り添う
下野新聞社 社会部長 三浦 一久

取り囲むカメラの前で気丈に語つていた父親が、言葉を詰まらせた。

「これが区切りなのかもしれないが、私としては何の区切りでもない。…息子を失ったという事実だけは…半年、 1年たっても…変わりませんJ

大田原高山岳部の生徒7人と顧問の教諭1人が犠牲になった3月の那須雪崩事故。第三者による検証委員会の最終報告書がまとまった10月15日、遺族らは県教育長への報告書提出を見届けた後、報道陣の前に立った。

涙をこらえながら息子への思いを語る一人の父親の言葉を聞いて、胸が詰まった。亡くなった生徒は16歳。私にも高校1年の息子がいる。かけがえのない存在を突然失う悲しみとは、どれほどのものか一。自分自身に重ね合わせ、感情がこみあげた。メモを取る手が震え、文字が乱れた。

どのような形であれ、「大切な人」の死は残された人の心に傷痕を残す。その痛みは、月日がたっても消えることはない。「いるはずの人がいない」という現実と喪失感、悲しみを背負いながら生きていく。

犯罪や事故で我が子を失つた被害者の取材を続ける中で、「どうして守ってやれなかったのか」と自分を責める親たちの姿をたくさん見てきた。苦しみ続ける親も、理不尽に命を奪われる子どもも、どちらも生まれない社会にしたい一。雪崩事故に限らず、そんな願いを込めて日々の紙面を作っている。

栃木いのちの電話の評議員となり、自らの命を絶つまで追い込まれる子どもや自死遺族の存在を身近に感じるようになって、その思いはより強くなった。

一方で、厳しい現実も思い知った。委員として出席した県自殺対策連絡協議会の会合で、配布資料に「10代~20代の死因第1位は自殺Jとあるのを見て、改めて驚いた。これで「健全な社会」だと胸を張れるだろうか。

栃木いのちの電話は9月から、若者の自殺防止の一助にと、県内約5万5千人の全高校生にインターネット相談のアクセス先を記したカードの配布を始めた。定期入れに収まるサイズで、私の息子の手元にも届いている。

その取り組みを、 8月29日付の紙面で報じた。夏休み明けで、18歳以下の子どもの自殺が統計上最も多いとされる「9月1日」の前に掲載することを意識した。同時に、栃木いのちの電話の大橋房子事務局長にメッセージを寄せていただき、記事の隣に添えた。

「『自殺したい』『消えてしまいたい』と思っている君へ。心が重く、学校へ行きたくないのなら、どうぞ休んでください。休んで自分を守ってほしい」(後略)

受話器の向こうの「いのち」と向き合い続けている大橋事務局長の思いは、きっと悩みを抱える子どもたちの心に届いたはずだ。

地元紙の役割は、地域で生活する人々に寄り添うことだと考えている。私たち記者もまた、この地に生きる「当事者」だからだ。子どもたち、親たちの苦悩と孤独、痛みや悲しみに寄り添いながら、読者と共に社会を変えていくための言葉を探し続けていきたい。

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