傾聴(八島禎宏)

広報誌 栃木いのちの電話 第112号

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広報誌 第112号 / シリーズ listen

傾聴
作新学院大学小学部 副部長
近畿大学豊岡短期大学 非常勤講師
八島禎宏

「たより112号」の原稿締め切りが迫っている。そう感じながら毎日の「しなければならないこと」に追われるまま時間を過ごしてきた。 本音を言えば「しなければならないこと」を建前に原稿執筆を後に回していただけなのかもしれない。そして今、ベンを取り始めた(正確に言うと パソコンのキーボードを叩き始めた)。

時刻は早朝3時。デスクトップの隣にはiPadと新聞が置かれている。iPadはネット配信の記事を見せていた。 「毎日新聞、2019年10月13日『路上生活者の避難拒否 自治体の意識の差が浮き彫りに』という小見出しが目に飛び込んできた。どうやら台風19号に 伴って開設された避難所で、東京都台東区は路上生活者など区内の住所を提示できない人を受け入れなかったとのことらしい。都内では住所の区別なく 受け入れた区もあったと続けている。iPadの隣の新聞は両面開きで机を占領していた。「読売新聞、2019年10月13日『台風に保育士を思う』」と書いてある。 台風と保育士がどうつながるのだろうと初発の感想が頭の中を巡る。

記事の概要はこうだ。台風15号に見舞われた先月9日のある家庭の朝の様子が書かれていた。都内に住むこの家には認可保育園に通う男児がいる。 姉は小学生だが臨時休校のメールが届いた。…中略…。仕事が終わり男児を迎えに行った際、「保育園の先生たちはどうやって通勤したのだろう」 という疑間が頭をよぎったという。思い切って保育士に尋ねたそうだ。その返事は、暴風雨の中、徒歩などで出勤し通常通り開園したという。 そういえば、朝日新聞にも同様の記事が載っていたことを思い出した。こういう時にこそ新聞記事のスクラップ(切り抜き)を趣味としてい る意味がある…はずだった。切り取っていなかった…。仕方なく、 “根拠"を確かめる意味でiPadで検索する。と、すぐに出てきた。 「朝日新聞、2019年9月12日『台風、でも保育園は開いた』」という見出しで始まっている。東京都港区の私立認可保育園の園長は語る。 「職員には早めの出勤をメールでお願いしました。それぞれの判断で事情が許せる職員には、園の近くの宿泊施設に前泊してもらいました。…後略…。」

これら保育園の判断に対し、学校は法律に縛られているため勝手にはできない。「(学校は)災害や感染症の拡大の恐れがある場合、校長や教育委員会の 判断で臨時休校にできる」と法律が定めている。しかし、保育園にはこのような法律はない。かの保育園の園長はこうも語ったようだ。 「働く必要のある保護者がいる。簡単に臨時休園にはできない」二つの記事に目が留まってしまったのは何故なのだろうと自問自答している自分に気付いた。 短絡的に「保育園の判断は立派だ」「学校は、やはり固い」という答えを導き出したいわけではない。それぞれに事情があってのことで、 とやかく言われる筋合いはないと思う(それでも、やっばり「開園した保育園は大したものだ」と思ってしまう自分もいる)。

さて、最後の最後に本題である。「聴く」行為を行動化し相手に寄り添っているのは…保育園だろう。ちなみに、いの電への電話は住所の提示は必要ない。 つまり、いの電こそ「聴く」行為の最前線に立っていることに気付いたのである。蛇足だが、本日10月14日付け朝日新聞にも「ホームレスの受け入れ断る」 の小見出しを見つけてしまった…。

今秋、台風の被害に遭った方々にお見舞い申し上げます。

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