共感して聴くこと(衛藤 進)

広報誌 栃木いのちの電話 第113号

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広報誌 第113号 / シリーズ listen

共感して聴くこと
上都賀総合病院認知症疾患医療センター 衛藤 進

世界的に大流行しているコロナウイルス感染が日本でも深刻になってきました。このような社会情勢では、人々の自由な行動が抑制され、人々のつながりが乏しくなり、 社会的な孤立を強めてしまいます。このような時こそ、電話相談は、不安定な彼らの心を効果的に支えることができます。その際の心がけとして、「共感して聴くこと」 が大切です。

私も駆け出しの頃は、患者さんの自殺念慮(死ぬしかない、死にたい)の訴えを、つい批判的な視点で受け止め、途中で患者さんの話を遮ったり、修正を図ろうとしたり、 それで、対話が進まず、あまり治療的でない面接となり、反省を繰り返してきました。

ある時、治療者と患者さんは、一つの事実を共有するが、それぞれの理解(現実)は異なっていてかまわない、まず、相手の理解(現実)を尊重して受け入れれば いいのだと気づきました。

患者さんの「死にたいという気持ち」が強い、ということが共通の事実です。それに対して、治療者の理解は、「病気の症状(希死念慮)が生じている」であり、 患者の理解は、「生きられない、生きたくないという現実がある」ということなのです。

ここで大切なことは、患者さんの直面している「もう生きられない、生きたくない」現実こそが取り上げる意味のある問題なのです。その際、患者さんの現実に伴う 感情(とても辛い、生きていたくないほど苦しい)をしっかり受け止めた上で、それでは、「生きるために、あるいは生きたくなるために」は、どんなことが必要か、 どうすればよいのかと対話が成立するようになります。

このことは、電話相談で、「生きづらさ」を訴える相談者への対応にも応用できます。まずは、無条件に相手の話を受け止め(共感)、 相手の話に耳を傾ける(傾聴)ことで、相手の心が開かれ、相談者の「生きづらい現実」の内容とそれに対する「つらい気持ち」が語られます。

こちら側としては、「生きづらい現実」の部分と「気持ち」の部分を頭の中で分けて受け止める必要があります。それぞれに共感しながら、 相手の「辛い気持ち」を支えて、「生きづらい現実」の部分に対して具体的に接していくことで、前向きの解決への道をアドバイスすることができると思います。 本人の気づきであったり、安心であったり、専門機関へのつなぎであったり、問題解決に向けての行動が取れるようになります。

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