「傾聴」ということ(村里 忠之)

広報誌 栃木いのちの電話 第115号

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広報誌 第115号 / シリーズ listen

「傾聴」ということ
村里心理療法研究所・宮カウンセリングルーム 村里忠之

傾聴というテーマで何か書くようにと依頼がありました。

僕は「傾聴」のワークショップで必ず言及することが有ります。それは相談を受ける側が、自分が相手(電話相談ではコーラーですね)に対して何か言いたい 気持ちになったとき、それを言わないで我慢するということです。

これは医療従事者が病院等へ医療を受ける必要があるのになかなか来ない、受診をしぶる患者さんのために、来る気を起こさせるために開発された 「動機付け面接法」から取り出したもので、その基本的な姿勢としてのルール(rule)という原則の第一に置かれたものです。 R=resistance(抵抗)は自分が言いたい気持ちに抵抗する姿勢、U=Understanding(理解)=は相手の気持ち、感情を理解すること、 L=Listening(傾聴)は相手の言うことにひたすら耳を傾けること、最後のE=empower(元気づけ)は上三つが徹底されると、相手は自ずとその気になる、です。

誰かに相談をされた人は、ふつう自分の思いついたことを口にしやすいものではないでしょうか。しかしそれを我慢して、こちらからは何も言わない、 つまり聴くことは一生懸命にやる、でも言いたいことが頭に浮んでも、少なくとも暫くは言わない。もし言うとしたら、相手が言ったことを伝え返す (リフレクト)ことに留める。これは実際にやってみると、練習が必要ですが、とても効果的なのです。

もうひとつ心がけるとしたら、相手の「枠」になることです。相手がどういうわけか興奮したり怒ったりしたときに、それを受け止めて逃げないこと。 恐いから、嫌だから逃げ出しては、受け止めることになりませんね。どっしりと腰を据えて、相手に付き合うこと、これが枠になることです。 相手が混乱していたら、大まかに整理する、これも枠になることです。いのちの電話自体が、一つの枠組みですね。 聴き手が、相手の話をゆったりと静かに聴くことはもう一つの大切な枠になるでしょう。 その効果の大きさに気づいたシュヴィングはこれを「母なるものの治療的効果」と呼んでいます。

今日では母親も、 このように子どもに沿って静かな関心を持ちつつ一緒に居続けることは困難なのかも知れません。 世の中はこのような態度を思いつけない程にせわしなく外的価値を巡って動いているように思われます。 この奔流に付いていけず、巻き込まれ、溺れてしまう人々が数多く居るのは、いのちの電話に電話をかけてもなかなかつながらないという事態からも、分かります。 話しを聴くことは難しい事ですが、何も言わず、優しい母のように相手に関心を持ちつつ、ただそこに居るだけでも、聴き手の存在は困っている相手を支える力になるのだと思われます。

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