広報誌 栃木いのちの電話 第116号
広報誌 第116号 / シリーズ listen
「聴く」をめぐって
宇都宮市教育センター 大瀧 伸一
「特技は、人の話をよく聞くということであります。」
聞き覚えのあるこのフレーズ、メディアでの表記は聞くでしたが、聴くの意ですね。 相談業務に携わる人にとっては、ごく基本的な資質能力ですが、こうも正面から言われると「それって特技と言えるものだったのか!?」 と少々妙な(新鮮な?)気がします。
でも確かに、相手からどんな言葉が飛び出してきても、感情を露わにしたり取り乱したりせずに聴けるには、 聴く側の人柄や心構えだけでなく、多くの学びや経験に基づく知識と対応スキルが欠かせません。 ですので、それらを身に付けてしっかりと聴けることは、特別な技と言えるのかも知れませんね。
ただ、自分ではちゃんと聴いているつもりでも、相手にとっては「聴いてもらえない」「自分が話したいように話せない」 と感じる場合があります。そうなると、そもそもの相談事に加えて、「今、ここ」での相談員との関係が新たなストレスになってしまいます。
私は対面での相談活動を行っていますが、相手がひと通り語り終えるまでの聴き方として、次の点を心に留めるようにしています。
相談者が語る「言葉」は、「事の端=事の端切れ」つまり相談者を取り巻く状況やエピソードなどの一部が言語化されたものです。 言葉と言葉の間や言葉の裏側には、未だ語られていない事実や思いが潜んでいます。そうした隙間や裏側に思いを馳せながら、 全体状況を俯瞰的に思い描いたり、相談者が見聞きして感じている主観的な世界を想像したりして物語の文脈を理解するようにしています。 そして、聴いて分かったことや気付いたことを自分なりの言葉で伝えることで、相談者が「分かってもらえた」 「気持ちを整理することができた」「話して良かった」と感じてくれたらと思っています。
気を付けなければならないのは、語られていない隙間や裏側を推理して言い当てるのとは違うということです。そうした意図を感じた相談者は、 警戒して途端に幕を引いてしまうか、二度と相談には来なくなるでしょう。
また、話の内容が分かりにくいと、こちらが耐え切れずについ語りに割って入って質問をしたくなります。 これは訊く行為です。然るべきタイミングでなら良いのですが、ともすると相手の話のペースを崩し、 主導権を奪い取ってしまうことにもなりかねません。
聴くことを困難にする落とし穴は、他にも自分自身の聴き方や話し方の癖も含め、たくさんあるものです。感性と想像力を総動員して聴きながら、 同時に自分自身の聴き方をチェックすることを忘れないように心がけています。