秋葉 美智子:「大切なメッセージを聴く」

広報誌 栃木いのちの電話 第118号

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広報誌 第118号 / シリーズ listen

大切なメッセージを聴く
栃木健公認心理師協会 秋葉 美智子

「時間をケチケチすることで、ほんとうはぜんぜんべつのなにかをケチケチしていることには、だれひとり気がついてないようでした。 じぶんたちの生活が日ごとにまずしくなり、日ごとに画一的になり、日ごとに冷たくなっていることを、だれひとりみとめようとしませんでした。 ・・・時間は、生きるということ、そのものなのです。そして人のいのちは心を住みかとしているのです。人間が時間を節約すればするほど、 生活はやせほそっていくのです」(『モモ』ミヒャエル・エンデ作 大島かおり訳 岩波文庫)

できるだけ短時間で、効率よく、成果が求められる時代にあって、どれだけ時間を大切にし、心に潤いを持たせて生活しているかを 「モモ」の作品は語りかけてきます。成果を求めて歩み続けていると、効率化を求めるゆえ、計画的に時間を配分することで、 不要と思われる時間を切り捨てます。不要な時間の切り捨ては時間の節約になるかもしれないが、生活はやせ細り、 心を住みかとする命も潤いに欠けるものとなってしまうかもしれません。学校生活に馴染めず不登校になった子どもたちは、 どのように自分の時間を作っていけばよいのか右往左往し、手っ取り早い方法としてゲームの世界に入り込んでしまいます。 ゲームの世界では24時間、自由に誰とでも匿名で関わることができるため、煩わしさはなく、気軽な時間となります。 初めは気軽さから満足したような感覚を持ちますが、時間が経過するにつれ、「これでよいのか」という不安な思いがよぎってきます。 家族もひきこもりの状態に焦りを感じ、ひきこもりの無駄な時間を何とかして意味のある時間にしなければ、生活がやせ細ってしまうと感じ、 登校できるためにはと思案します。

臨床心理学の分野で活躍されている村瀬嘉代子先生はご自身の著書である『ジェネラリストとしての心理臨床家』(金剛出版)で、 中学生の不登校の母親からの相談に「今が大切、と存在の安全保証感を抱けるようなメッセージをその子に贈れたら…と提案した」。 母親は「久しぶりの雨で、疲れて見えた木々の緑が心なしか蘇ったように見える」など、何気ない出来事を記して、 食事のお盆に添えるようにしたら、ほんの少しずつだが、少年もメモ書きに自分の気持ちを記し、空になった食器に添え始め、 コミュニケーションがよみがえったとのことです。母親のメッセージを見ることが、母親からの声を聴くことになり、 またやり取りが互いに時間を共有することになり、生活しやすくなったのでしょう。日々の生活は『まいにちがプレゼント』 (いもとようこ 金の星社)で、そのプレゼントを何気ない言葉に換えて、送り、また受け取ることができる日常のありようを大切にできれば、 心の奥に潜む思いを聴くことができるようになるでしよう。

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