夏葉 崇:「聴くことの大切さ」

広報誌 栃木いのちの電話 第122号

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広報誌 第122号 / シリーズ listen

上手な聴き方
児童心理司・栃木県公認心理師協会 堀 明人

相談援助職を志す前、大学の卒論に困った私は、当時流行していたソーシャルスキルトレーエング(SST)を小学校の授業で行う研究をすることになりました。 とはいえ、協力してくれる学校はなかなか見つからず。ようやく話を聞いてくれる小学校が見つかりましたが、協力いただけるのは45分の授業1コマだけでした。 通常、SSTは3~5コマ分の授業で複数のスキルを組み合わせたプログラムを実施するため、1コマだけで何をするか悩みました。私は「上手なきき方」の授業を行うことにしました。

SSTは対人場面での振る舞いをスキルとして具体的に見える形で教え、ロールプレイ等で定着を図る技法です。 「上手なきき方」は①していることをやめる、②相手を見る、③うなずく、という要素に分けて小学生に教え、クラス内でロールプレイをしてもらいました。

授業の結果、「上手なきき方」が上手くなった子が半数以上いた、 というところは予想どおりでした。 意外だったのは、聴き方が上手くならなかった子たちのストレス反応が低下していたことです。 周りの子たちが上手に話を聴いてくれるようになった結果、ストレスが下がったのだと思われます。これが私にとっての「聴く」ことの効能を考える原体験となっています。

さて、電話相談ではどうでしょうか。「上手なきき方」の①②は話し手に注意を向けていることを視覚的に示すことを目的としています。 しかし、電話では視覚的なスキルは使えません。つまり電話では"③うなずく"しか使えない、ということになります。 音声だけの会話で"話し手の話に関心がある"と伝え続けるためには、相づちのスキルが求められます。 表情の変化を見ることもできないため、声のトーンや話す速度、間の取り方、言葉違いの変化を読み取って調整することになります。 また、沈黙を怖がらず、焦らずに待つことも話し手のベースを守ることにつながります。

相談援助職に就き、さらに電話相談に関わるようになり、改めて「聴く」ことの重要性と難しさを実感しています。 電話越しに相談者の声を聴くという行為は、相談者の心に寄り添い、その感情や思いを理解すること(理解してもらえている、と感じてもらうこと)が出発点です。 私もまだまだ自信がもてないでいますが、話し手のストレスやネガティブな感情の軽減に繋がる聴き手になるため、お互いにスキルを高めていきましょう。

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