広報誌 栃木いのちの電話 第123号
広報誌 第123号 / シリーズ listen
「聴く姿勢」
下野新聞社 編集局長 三浦 一久
春になり、今年も初々しい「1年生記者」たちが入社してきました。新人たちと話をすると、こんな質問をされることがあります。
「取材のこつを教えてください」
自分が駆け出しのころ、先輩からは「記者は足で書け」と教えられました。 まず現場に足を運び、人に会い、話を聞く。それをどれだけ積み重ねられるかが、良い記事を書くための要諦であると。 スマホさえあればどこにいても膨大な情報が得られる今、かつて教わった言葉を日々かみしめています。
自分自身の経験を踏まえて、後進に伝える言葉をほかに挙げるとすれば、「聴く姿勢の大切さ」ということになるでしょうか。
締め切りまでの限られた時間の中で、私たちはどうしても早く取材結果を求めがちになります。 相手は理路整然と話す人ばかりではなく、その場の環境や精神状態によっては寡黙になったり、うまく言葉にならなかったりもする。 そんな時、焦って相手の言葉を遮り質問してしまうと、本当に話したいことが引き出せなくなることがあります。 また、相手に何かを言わせたいがために誘導するような質問をしてしまえば、事実から遠ざかってしまう恐れもあります。
時間の許す限り、相手に話したいことを話してもらう。 その間に頭の中で話を整理し、最小限の質問を挟んでいく。 それが「こつ」と言えばそうなのかもしれませんが、マニュアル通りにいかないのが取材でもあります。 記者である前に人として相手と誠実に向き合うこと抜きには、取材は成り立ちません。
「話を聞いてくれてありがとう」。 犯罪被害者遺族の方を取材した後、そう言っていただくことがあります。 家族を失った悲しみ、苦しみを言葉にするというのは、つらい時間に違いありません。 感謝したいのは、取材に協力してもらった私のほうです。 それでも、胸の奥にため込んだ心情を吐き出すことで少しでも心が軽くなるなら、その時間は意味があるものなのかもしれない。 記者の仕事は「書く」だけではないのだと教えられました。
2016年に101歳で亡くなるまで、反戦平和を訴え続けた元新聞記者のジャーナリスト、むのたけじさんは、こんな言葉を残しています。
「語り上手が良い聞き手であるとは限らない。しかし聞き上手は、必ず良い語り手である」
新聞が「オールドメディア」とやゆされる時代です。 これからも良き「伝え手」であり続けられるよう、市民の声に誠実に耳を傾けていこうと、次代を担う新人記者たちの初々しい姿を見ながら思いを新たにしています。